前回パワハラ可否認定の7つのポイントについてまとめました。
今回はパワハラの6つの類型についてまとめていきます。
それぞれの類型において該当例と非該当例に分けて記載していきます。
※あくまでも典型例であり、限定列挙としてまとめているわけではありませんので、参考としてみてください。実際は過去の判例法理が最も参考になります。
パワーハラスメント6つの類型について
①身体的な攻撃
これは分かりやすいと思います。
故意に相手に危害を与えたら該当となります。
危害を加えていなくても、物にあたる威嚇行為は身体的な攻撃に該当します。
当然、振り返った時に偶然相手に手が当たった等という偶然性の身体接触は非該当となります。
聴き取りの中で、偶然か故意かについて双方の意見が割れた場合は、第三者に聴きとると良いでしょう。
【過去の事例】※グループ病院外
過去に偶然か故意かで意見が分かれた事案がありました。
医師が指示とおりに処置をしなかった看護師に対して、スタッフステーションの中で数十分にわたり罵倒していました。周囲にスタッフがいる状況下で1人に対して罵倒していたのです。医師は椅子に座り看護師は立たされていました。「こんな初歩的なこともできないのか!」「看護師やめろ!」椅子に座っていた医師はボルテージがあがり、椅子から立ち上がり、立っていた看護師を両手で突き飛ばし、その場から去っていきました。手を出された看護師は「パワハラだ」と訴え、ハラスメント委員会に挙げました。
聴き取りの中で、医師は「通り道だったから払いのけただけで故意ではない」と主張し、看護師は「明らかに私を故意に突き飛ばした」と意見が割れたのです。困りましたね。
意見が割れたので、その場にいた第三者に故意に見えたかどうかの聴き取りを行いました。
さらに、看護師を払いのけないと椅子から立ち上がり去っていくことができないかの現場調査も実施しました。
結果は『故意』と認定。
周囲に移動できる空間があるので、わざわざ看護師を払いのけなくても立ち去っていける状況下であることが決定的な判断となりました。
②精神的な攻撃
これは言ってはいけないNGワードを押さえておくことが重要となります。
「人格否定」や「ジェンダー」に関する侮辱した内容はNGです。
また「周囲の前」での罵倒や「複数人が確認できるツール」での罵倒は該当となります。
注意・指導する時は言葉や場所に気をつけましょう!
【NGワード(例)】※あくまでも例です
①学歴・ステータスを見下すような発言
「お前は高卒だから使えない奴なんだ」
「やっぱりFランク大学卒だがらしょうがないか」
②両親を蔑むような発言
「君は片親で育てられたから、マナーができていないんだろう」
「こんな初歩的なミスをするなんて親の顔が見てみたい」
③性格を否定する発言
「おまえは根暗で積極性がないから営業成績が悪い」
「のろまでマイペースだから周りから浮いている」
④プライベートを引き合いに出した発言
「そんなんだから結婚できないんだ」
「男気がないので根性が足りない。もしかしてそっち系の趣味?」
⑤見た目や容姿についての発言
「一重だからアイライン引きにくそうだね」
「足が太いから制服が似合わない」
⑥仕事のスキルを否定するような発言
「お前は仕事ができなくて使えない奴だ」
「こんなこともできないなら小学生からやり直せ」
就業規則違反や懲戒規定に係る内容は、たとえ一定の強い指導であったとしても、パワハラに該当しないと判断されることがあります。
③関係の切り離し
パワハラは暴力や言葉だけではありません。
周囲との関係を切り離して孤立化させることも該当となります。
【過去の事例】※グループ病院外
障害者雇用枠で勤務しているスタッフ(Aさん)に対しての職場内孤立についての事例です。
Aさんは障害者雇用ということを直属の上司以外には知らされてほしくないということで、直属の上司であるBさんはAさんの意思を尊重し、採用に関わる総務課スタッフ、自部署の一定の管理者のみに伝えることとしました。
しかし、仕事をしていく中でAさんの徐々にできないことが浮き彫りになり、その後処理を行う周囲のスタッフは苛立ちを隠せない状況となりました。周囲のスタッフの冷たい声に対して、直属の上司のBさんはAさんを守るため庇うような回答を繰り返すことしかできません。
度重なるAさんのミスに対して苛立ちを抑えきれなくなった周囲のスタッフは、徐々にAさんとの距離を取るようになり、数か月後Aさんは職場内で孤立するようになりました。これ以上関係が悪くなるのを避けようと直属の上司Bさんは、Aさんを該当部署と切り離して仕事を割り振るようにしました。Aさんは「職場のスタッフが集団で私を無視している。これは集団パワハラだ。」とハラスメント事象として挙げました。
事象として挙がったため、調査員2名を選定し聴き取り調査が始まりました。調査員はAさんが障害者枠で勤務している状況を知らなかったので調査の中ではじめて知ることになりました。調査員は中立な立場です。調査の段階では私的な意見を言うのはNGです。
Aさんからの聴取後に直属の上司Bさんの聴取となりました。直属の上司Bさんは「Aさんの意思を尊重していたが、かえってAさんを孤立させてしまう結果となってしまった。周囲もAさんの障害状況を分かってくれたら納得できると思う。」とAさんに自身の状況を周囲に知らせても良いか話し合うこととなりました。
結果としてAさんも快諾し、周囲に障害状況を告げた後、周囲からサポートしていくとの声を聴いたため、ハラスメント事象は取り下げという形となりました。
周囲との関係の切り離しにおいては、一定期間の別室での短期集中研修は切り離しとはなりません。
その際に大事なことは、「いつまでにどのようなことができるようになれば」という「時期」と「内容」を明確にしておくと良いでしょう。
上記のAさんは周囲のサポートを受けながら、切り離すことなく対応できたとのことです。
④過大な要求
医療職においては「ノルマ」という概念ではなく「ケア・サービス」を求めていくため、過大な要求というのは少ないかと思います。
唯一気をつけてほしいのが「教育」に関する点です。
十分な指導をしていないにもかかわらず、一定の技術能力を求めてしまうと、「過大な要求をされた」としてパワハラ事象として挙がってくるかもしれません。
将来性を期待しているスタッフに対して、学会発表をすすめる等は過大な要求に該当しないと判断されるかと思います。
しかし、1年に複数回の学会発表を求める等の通常の回数とは大きくかけ離れる場合は別です。
⑤過小な要求
医療職では能力に応じた職務内容の範囲制限を課していることもあろうかと思います。
命にかかわる現場ですから当然のことですよね。
ここで気をつけていただきたいのは、能力以下の職務だけを実行させる仕事の振り方です。
特に国家資格を持っている職種に関しては、よほどの理由がない限りは能力以下の職務しか与えない状況下にはならないかと思います。
過去にインシデントを起こしたから、という単純な理由のみを持ち出して職務制限をするのは避けましょう!
⑥個の侵害
この項目はセクハラとして挙がる内容も含んでいますが、基本的な考えは「個人情報の安直な曝露」や「プライベートの監視」が該当します。
業務時間外でのLINEによる業務指示や有休取得理由の聴取等は気をつけましょう!
【過去の事例】※グループ病院外
病院は病棟単位で労務管理していることが多く、勤務希望や休みの取り方等において、病棟毎のローカルルールができやすい環境です。今回紹介する事例は、まさに病棟ごとのローカルルールが存在していた病院の事例です。病院あるあるかもしれませんが、定期的に病棟間のローテーションがあるため、移動した病棟のルールを覚えることから始めます。移動前病棟では許されていたことが、移動後の病棟ではNGになっていることもあります。なるべくNGにならないように「郷に入れば郷に従え」と言い聞かせ、業務に従事していたスタッフ(Cさん)からの声です。
Cさんは1か月前に病棟が変わり環境に慣れるまでに時間がかかってしまい少し疲れていました。実家が遠方であり、数か月前に大好きだった祖母が亡くなったことから、初盆は帰省したいと思っていました。前の病棟では海外旅行に行くスタッフが7日間休んだことも頻回にあったため、公休と有休を組み合わせて7日間の休暇とし、疲れも癒したいと思い申請しました。
ところが「病棟変わったばかりで流れも覚えていない状況で7日休むのは違うんじゃない」と申請を却下されたのです。「どうしても帰省したいのですが・・・」「なんで?理由は?」
祖母が数か月前に亡くなったことを自分の口から言うと、悲しみの感情が溢れてきそうだったのでCさんは口を閉ざしたままです。
「特に理由がないのなら早く仕事に慣れるために働いて。慣れた後に有休取得しても良いから。」
仕事に早く慣れるような指導もされていなかったことに加え、有休の取得理由をきかれ、その如何によって有休取得できない状況になることに対して苛立ちを感じ、Cさんはハラスメント事象として挙げてきました。
上司への聴き取り調査では「有休取得をCさんが申請してきたが予定を本人が言わなかったので、早く仕事に慣れてほしいという気持ちから申請を却下した。慣れた後に取得して良いと伝え、その場がおさまったので特にパワハラに該当しないと考えているし、本人も納得したと認識していた。」
よくある勘違いですね。その場で本人が何も言わないのを「納得した」と捉えるか「言えるような環境でなかった」と捉えるのかの違いですね。
上司目線からだと前者、スタッフ目線からだと後者ですが、これはハラスメントに該当するのでしょうか。
結果として、
・時季変更権はあるものの原則として有休取得理由は聴かないこと。
・7日間Cさんが休んでも業務に支障はないこと。
・仕事に慣れるか慣れないかは有休取得の是非は関係がないこと。
以上のことから、Cさんは有休取得可能となりましたが、全く有休取得を認めていない訳ではないことから、パワハラと認定するまでには至らないという結果となりました。
「個の侵害」と「スタッフのプライベートを知る」ことは遠からず近からずですが、大事なことはそのスタッフと自分の間の普段からの関係性です。
全く関係性がとれていない相手に対してプライベートのことを聴くのは個の侵害と捉えられてもおかしくないですし、普段から趣味の話しをしている相手に対して「先日の休みはどうだった?」と趣味のことを聴くのは問題ないかと思います。
大切なのは距離感を履き違えないことですね。
距離感が虚履観にならないように。虚(むなしく)履(はきちがう)観(じょうきょう)
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